Multi-Sigma ® を用いた地球温暖化係数(GWP)予測

冷媒は、二酸化炭素(CO₂)と比較して数千倍の地球温暖化係数(GWP)を有し、気候変動への主要な寄与要因の一つとなっています。キガリ改正などの国際的な環境規制のもと、GWPが100未満の低GWP冷媒の開発が急務とされています。本研究では、Multi-Sigma®上において、GWP100値を予測するAIベースのフレームワークを構築し、207種の冷媒に対する迅速かつ効率的なスクリーニングを可能とする手法を提案します。

1. AI解析

AIモデルの構築において、入力変数については、IPCC第6次評価報告書(AR6)に記載された冷媒群を対象にRDKitを用いて分子記述子に変換しました。この分子記述子に対して主成分分析(Principal Component Analysis: PCA)を適用し入力変数の次元を削減しました。さらに出力であるGWPの分布の歪みを補正するため、分位点変換(quantile transformation)による正規化を行いました。Multi-Sigma®上で学習させた3つのニューラルネットワークモデルのアンサンブル解析によって、逆変換後の実スケールにおける予測値と実測値の決定係数(R²)は0.918を達成し、高い予測精度を示しました。

2. 要因分析

Multi-Sigma®の要因分析機能を用いることで、PC10、PC3、PC4がGWP予測に大きな影響を与えていることがわかりました。PC10は、分子量、脂溶性(リポフィリシティ)、アリル型酸化物と関係があり、GWPに強い正の影響を与えることがわかりました。

一方、PC3(脂肪族複素環およびトポロジー指標)およびPC4(ニトリル基や体積に基づく記述子)は、いずれもGWPに対して負の影響を与えることがわかりました。これらの知見は、低GWP冷媒の分子設計における重要な構造的特徴を示唆するものです。

本研究で開発されたGWP予測モデルは、化学物質データベースに含まれる冷媒候補の中から、低GWP特性を有し、かつ要因分析により抽出された分子特徴を満たす化合物を効率的にスクリーニングするための有力なツールとなりうることが明らかとなりました。

Source: arxiv.org/abs/2411.19124