熱を活かす未来へ——ヒートポンプとAI解析の可能性
名古屋大学 松田圭悟教授 × 株式会社エイゾス 河尻耕太郎

名古屋大学大学院情報学研究科の松田圭悟教授は、「ヒートポンプ」や「オーガニック・ランキンサイクル(以下、ORC)」といった熱エネルギー利用に関する研究に、Multi-Sigma®をご活用いただいています。今回、松田先生とMulti-Sigma開発者である株式会社エイゾス河尻が対談させていただき、その具体的な活用方法について伺いました。
松田圭悟(Keigo Matsuda)/ 名古屋大学大学院情報学研究科教授
Ternary Systems LLC(ターナリーシステムズ合同会社)Chief Executive Officer (CEO) 兼 Founder。
2005年東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻博士後期課程修了,博士(工学)。
専門は化学工学。
ヒートポンプ・ORC研究の最前線
先生が現在取り組まれている研究テーマについて教えてください。
私たちは今、主に「ヒートポンプ」や「ORC」といった熱エネルギー利用に関する研究を行っています。簡単に言えば、効率的な空調や発電を目指したシステム設計です。これらの分野では、温度や湿度、空間サイズ、使用する化学物質など変数が多岐に渡るため、シミュレーションによる最適設計が非常に複雑になります。<br><br>そこで、我々は「Multi-Sigma®」を用いて、少ないデータで高速かつ高精度に条件探索や設計最適化を行っています。以前は実験者の勘に頼る部分が多かった設計が、今では客観的な解析結果に基づいて進められるようになっています。
AIツールを「直感的」に使える強み
Multi-Sigma®の導入で得られたメリットはどのような点ですか?
まず特筆すべきは、操作のしやすさです。機械学習や統計解析の専門知識がなくても、ユーザーフレンドリーなUIのおかげで初学者でも使いこなせます。特に、Min-Maxなどのスケーリングの機能は使いやすいです。また、「要因分析」機能は優れており、重要な変数の選別やパラメータ感度の把握に役立ちます。<br>たとえば、シミュレーションの初期段階では、開発者の予想に基づいて重要な変数の設定を選定しますが、Multi-Sigma®の要因分析では、時に想定外の変数が影響していることが可視化され、「なるほど」と気づきを得る場面も少なくありません。
実際に研究開発上でどのような成果がありましたか?
計算回数が劇的に削減できました。以前なら何百回も必要だったシミュレーションが、数十回に減ることで設計のスピードが大幅に上がりました。さらに、探索結果がグラフで可視化されるため、研究メンバーや学生との共有もスムーズです。
Multi-Sigma®で使ってみたい機能:連鎖解析
Multi-Sigma®の機能の中で、今後使ってみたい機能はありますか?
個人的には「連鎖解析」に興味があります。例えば分離剤の性能を予測するAIを使って、その分離剤を使ったヒートポンプの性能を次のAIで予測する、といった“AIの接続”ができたら面白いと思っています。
おお、それは面白いですね。今後、材料系や画像・スペクトル解析にも対応したツールを開発中なので、ぜひ一緒にやっていけたらと思います。
ぜひ。材料とプロセスってスケールが異なるので、通常のシミュレーションでは結びつけるのが難しい。そこをAIで連携させられれば、研究の質はぐっと上がります。<br>また、今後はAIモデルの共有機能やアプリ化により、より多くの研究者や実務家にMulti-Sigma®を活用してもらえる環境が整うと期待しています。
Multi-Sigma®への要望や改善点についてお聞かせください。
多様な評価指標を選択できるようにしてほしいという要望はあります。また、画像や形状データなど構造的特徴を持つデータへの対応が進めば、より広範囲な応用が可能になると考えています。<br><br>特に、臨床データのような不均衡・スモールデータでも有効に活用できる前処理機能や、データ欠損への柔軟な対応が求められています。現在、医療やバイオの現場では「数はあるが使えるデータが少ない」という問題が頻発しており、そのギャップを埋める工夫が今後の鍵になります。
社会実装に向けて
最後に、今後エイゾスに期待することなどあればぜひお聞かせください。
強いて言えば、もっと多様な前処理パターンや、画像・非数値データへの対応が進むとありがたいですね。医療や材料分野では、そういったデータも非常に多いので。
その点、まさに今取り組んでいるところです。データの前処理を自動で切り替えるような仕組みや、非構造データに対応した解析も進めているので、引き続きフィードバックをいただけたら嬉しいです。
わかりました。お互いに技術と社会の接点を広げていけるよう、これからもよろしくお願いします。
こちらこそ、引き続きぜひご一緒させてください!