妊娠期の母子保健情報から支援の必要性の予測
——大阪大学大学院医学系研究科 吉野様・岡本教授が取り組まれているAIを活用した母子保健研究
「妊娠期に得られる母子保健情報から、乳幼児期に保健師のフォローが必要となるケースを早期に見出すことはできるのか」——— 大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻 修士課程の吉野様は、こうした問いに対して、AI(機械学習)による分析を用いて研究に取り組まれました。今回のインタビューでは、研究テーマの背景や、AIを使った分析に挑戦された理由、Multi-Sigma®を実際に活用した感想、公衆衛生看護の母子保健分野におけるAI活用の今後について、吉野様、岡本教授にお話を伺いました。
吉野 沙良(Sara Yoshino)
大阪大学大学院医学系研究科 保健学専攻 修士課程
大学院にて、母子保健情報を用いた乳幼児期の保健師フォロー予測に関する研究を実施。
岡本 玲子(Reiko Okamoto)
大阪大学大学院医学系研究科 教授
公衆衛生・地域保健・保健師教育に関わる研究に従事。専門は公衆衛生看護学。
研究テーマは妊娠期の母子保健情報を用いた乳幼児期の保健師フォロー予測
まず最初に、吉野様が取り組まれていたご研究の内容について教えていただけますでしょうか。
研究テーマは、「妊娠期の母子保健情報を用いた乳幼児期の保健師フォローの予測」です。内容としては、AI(機械学習)モデルを使って、①妊娠期の母子保健情報から乳幼児期の保健師フォローを予測すること、また、②乳幼児期の保健師フォローに関連する妊娠期の要因を明らかにすること、を目的としています。<br><br>今回の研究ではこのデータに対して初めてAIモデルを適用して解析を実施しました。この研究が実れば、虐待発生のリスク要因や、保健師フォローにつながる要因を持つ妊婦さんを妊娠期から見出し、早期に必要な支援につなげられる可能性があると考えています。児童虐待の発生予防や、母子の安定した養育環境の獲得、さらに経験年数にかかわらず保健師が一定水準以上の質でリスク要因を持つ妊婦さんをスクリーニングして支援することにもつながる可能性があると考え、研究を進めてきました。
学部時代から関心を持っていた母子保健分野でAI活用に挑戦
公衆衛生の中でもさまざまな分野がありますが、その中で今回のテーマを選ばれた理由はどのようなものだったのでしょうか。
私はもともと学部の頃から母子保健分野に興味がありました。その中で、近年は自治体でもAIの導入や活用が進められていて、AIによって判別予測ができたり、業務効率の向上や相談援助活動の質の確保につながったりする可能性があると感じていました。そうしたAIの特性と、虐待発生予防や、産後にリスク要因を持つ妊婦さんを早期にスクリーニングして支援につなげることを結びつけて、研究できないかと考えたことが、このテーマにつながりました。
研究室として、こうした研究に取り組みやすいデータ基盤もあったのでしょうか。
はい。私が所属している研究室では自治体と共同研究契約を結んでいて、これまでも母子保健情報のデータ提供を受けながら研究を行ってきました。今回の研究でも、6年分のデータが蓄積されていたので、その膨大なデータを使って何かできないかというところから取り組みました。
自治体から提供を受けたデータに対して、AIを使うという新しい取組みに挑戦されたわけですね。
そうですね。研究室の中でも、それぞれテーマは違うのですが、私はAIを使った分析という形で取り組ませていただきました。
Multi-Sigma®導入の決め手は使いやすさと研究テーマとの相性
今回、AI解析にMulti-Sigma®をご利用いただきました。導入の経緯について教えていただけますか。
導入を決めたのは私ではなく岡本先生なのですが、AIソフト自体はいくつか比較検討していたと聞いています。学会への出展や案内メールなどを通じて複数の候補を見た中で、Multi-Sigma®は使いやすそうで、研究テーマに合った分析ができそうだと感じたこと、また予算的にも導入可能だったことから決めたと伺っています。
岡本先生から見て、Multi-Sigma®を選ばれたポイントはどこにあったのでしょうか。
まず予算面で導入しやすかったことがあります。それから、Multi-Sigma®のセミナーなどを聞いた中で、こうした分野が得意ではない人間でも何とか使えそうだと感じられたことも大きかったです。<br><br>また、医学系の方が使った事例をご紹介いただいていたので、「こういう使い方ができるのであれば、自分たちが持っているデータでも活用できるかもしれない」とイメージできました。すぐ研究開始のために動かなければいけない状況でもあり、その中で一番フィットしたのがMulti-Sigma®でした。
AIを使ったからこそ見えた分析の難しさと試行錯誤
実際にMulti-Sigma®を操作されてみて、率直な印象はいかがでしたか。
操作自体はとてもわかりやすかったです。最初は、どのような手続きで分析をするのか覚えるまでに少し時間がかかりましたが、一度オンラインでミーティングを開いていただいて、デモンストレーションもしていただいたので、具体的に分析の流れを掴んでからは使いやすかったです。データの取り込みから、AIモデルの構築、要因分析まで、操作も比較的簡単だったという印象があります。
今回の研究では、分析を進める中でどのような工夫をされたのでしょうか。
自分なりに大きく工夫したというよりは、教えていただいた手順にできるだけ忠実に進めていったという感覚です。私自身、こうしたAIツールを使うのは初めてだったので、まずは基本に沿って進めることを意識しました。その中で、解析が一度でうまくいかなかったこともあって、アドバイスをいただきながら、ニューラルネットワークモデルによる解析だけでなくガウス過程回帰を用いた解析も試したり、そうした試行錯誤は、今回の研究でかなり大きかったと思います。
変数の選択にも苦労された印象がありました。そこはどのように進められたのでしょうか。
今回の研究では説明変数が60近くありました。最初は、すべての変数を入れて解析したのですが、なかなかうまくいかず、精度も低いままでした。公衆衛生分野では、単変量の検定を行って有意差のあった変数項目を次の解析に導入するという流れが一般的なので、その流れを踏まえて変数項目を選択しMulti-Sigma®を用いた分析で利用することにしました。
母子保健・公衆衛生の分野では、AIに全面的に任せるのではなく人と併用することが重要
最終的な結果としては、AIを用いた分析ではどのようなことがわかったのでしょうか。
Multi-Sigma®を用いてニューラルネットワークモデルで分析を行いました。このデータに対して初めてAIモデルを用いて、その結果がどのようになるのか分析できたことは意義があったと思っています。今回分かったこととしては、良いモデルを作るには、現在のデータ項目ではまだ十分ではなかったということがわかりました。ニューラルネットワークモデルでの分析は初めてでしたが、そのおかげで従来手法との比較の中で見えてきたこともありました。最初は「AIだけで判断することができるか」という主題を考えて研究を進めていたのですが、実際にやってみると、AIだけで完結するというよりは、現場での人の関わりも大切だと感じました。
今回AIを使った研究に取り組まれて、今後この分野でAIがどのように活用されていくとよいと感じられましたか。
一般的に児童福祉や保健分野では、AIによる予測そのものが難しい特性を持っている可能性もあると感じています。私たちが対象としているのは「人」ですし、個別性や多様性が大きいデータに依存しているので、今後も、100%の精度の予測を実現することは難しいと思っています。<br><br>その一方で、AIの性能はデータの質にも左右されると思うので、予測因子として妥当なデータを整備したり、目的変数や説明変数の設定を見直したりすることで、今後もっと予測精度の高いモデルを構築できる可能性はあると思います。ただ、やはり人を対象とする分野なので、AIや機械学習に頼りすぎるのではなく、地域特性や対象者の特性を踏まえた上で慎重に適用を考えていく必要がありますし、保健師さんの主観や感覚も大事にしながら併用していくことが大切だと思います。
膨大な件数のデータをAIが分析することで現場の判断をサポートしつつ、最終的には現場の専門職の方の経験に基づく判断や相手の方との対話とAIを組み合わせていく、というイメージでしょうか。
はい。まさにそのような形が理想だと思います。
岡本教授が見るAI活用の可能性
岡本先生は今回の研究全体を通して、どのように感じていらっしゃいますか。
測定できるものを入力データとして危険度を予測していく、という設計でAIを活用すること自体は、とても有用だと思っています。一方で、今回のようなアセスメントシートのデータだけで予測しようとすると、やはり難しさがあるとも感じました。<br><br>今後、もしゼロから研究デザインを考えるのであれば、もう少し客観的に測定できるデータを用いた活用のほうが、AIとの相性は良いのかもしれません。医学の分野では、明確な指標やマーカーを使ってAI活用が進んでいるので、保健分野でも、より測定可能でリスクが明瞭なものを対象にした研究がさらに期待されると思います。
公衆衛生や保健の分野全体として、AIや機械学習の導入に対してどのような受け止め方をされているのでしょうか。
基本的には、「使えるものは使おう」という雰囲気はあると思います。AIを活用できる部分には積極的に活用していく方向に進んでいる印象です。ただし、もちろんそれだけに頼るのではなく、最終的に自分で考えて判断できることが大前提です。教育する側としても、これからは「AIを使うかどうか」ではなく、「AIをどう使いこなし、どう判断するか」を考えられる人を育てていくことが重要だと感じています。
エイゾスによるサポート
最後に、当社とのやり取りやサポートについての印象もお聞かせいただければと思います。
とても丁寧に、ひとつひとつ答えていただいた印象があります。その回答を踏まえて試行錯誤しながら研究を進めていくことができたので、とてもありがたかったです。
Multi-Sigma®を研究で使っていく中で、こういうときはどう考えたらいいのか、どう見たらいいのか、という点に丁寧に対応していただき助かりました。