カゴメ様におけるAIを活用したスマート農業:エイゾスのMulti-Sigmaを用いた生鮮トマトの収量予測へ
カゴメ様は、生鮮トマトの需給調整の際に重要な情報となる収量予測の精度を高めることを目的とし、Multi-Sigmaを活用した生鮮トマト収量予測システムを開発されました。そのリーダーである今森様(以下、敬称略)とMulti-Sigma開発者である株式会社エイゾスの河尻が対談させて頂きました。
社名:
カゴメ株式会社
事業内容:
調味食品、保存食品、飲料、その他の食品の製造・販売、種苗、青果物の仕入れ・生産・販売
売上高:
2,247億円(2023年12月期)
収量予測にAIを導入する前の課題と、導入による現場への影響
本日は、どうぞよろしくお願いします。まず生鮮トマト収量予測を実施する前の課題について教えてください。
はい、弊社の生鮮トマト事業におきましては、トマトの生産から流通・販売まで全て手掛けておりますので、農場でトマトがどのぐらい、いつ取れるのかという収量予測の情報というのが非常に重要になってきます。今までこの収量予測は農場の担当者が勘や経験をもとに立案していたのですが、なかなか予測が当たらないということでそれをいかに向上させるかというところが課題になっておりました。
なるほど。では、予測システムを開発、導入するにあたって試行錯誤された点について教えていただけますか。
最初のアプローチとして天気予測によって、収量予測を高精度にしようということでスタートしたのですが、なかなか長期の天気予測というのが難しく、そこで壁がありました。それから、手持ちの大量データを活用していこうというアプローチに切り替えました。その後はそのデータをどのように加工すればいいのかということで、統計解析やAIの様々な手法を取り入れた結果、最終的にはエイゾスさんのAIを使うという結論に行きつきました。
今回の予測システムは大成功ということが言えるかと思いますが、御社のどのような強みが生かされたと思われますか。
弊社は生鮮トマトの生産、流通、販売まで手がけていますので、トマトがどの程度取れたかという情報から、営業が臨機応変に対応し、アクションしているということが非常に大きなポイントになったと考えています。
今回開発されたシステムは、御社のビジネスにどのような影響、効果をもたらしたのでしょうか。
全てのバリューチェーンで効果があると思っています。まず生産側の影響としては農場の人たちが、トマトがいつどの程度の量取れるのかということを予測できるようになりました。これに伴って、仕事の量や人員配置の調整がうまくできるようになると見込んでおります。また、その後の流通、営業販売についてもより精度の高い収量予測が実現できたことで、戦略的な営業活動に繋げられるというところも非常に大きな効果であると思います。
最近の予測システムの状況はいかがでしょうか。
ええ、とても順調です。この間もある菜園の方と話をしたのですけど、「従来の予測よりもAIの方が当たっている場面が多いよ」という話がありました。それによって、さらに現場の方も信用してくれているようですね。
現場の方たちからすれば、今まで長年ヒューマンベースでやってきている中でAIがでてきて、おそらく気持ち的な抵抗もあったと思うのですよね。やっぱり実際に使ってみてもらって、初めて信用されるという面がありますか?
そうだと思います。意外とこのツールやるなという。多分実感がないとなかなか信じてもらえないと思っていて、長く使ってもらっている菜園の方の信頼が厚いですね。やっぱりまず技術を作っていって、それを実際に使ってもらうというところにすごく大きなハードルがあります。こういうことができましたというのも大事なのですけど、じゃそれを実際に実装しますというのがやっぱり一番大変ですね。今回良かったのは開発の段階からユーザーにかなり寄り添っていましたよね。毎回菜園に行って、どういうものだと使えるかみたいなところも河尻さんと一緒に話しながら開発できたので、実際できたものは菜園側としてもすごく使いやすいと感じているようです。作った技術が全て実ることも多くはないのですが、今回はとても良い仕事をさせてもらいました。
独自の収量予測システムからMulti-Sigmaの活用へ
収量予測システムにおいて、弊社のMulti-Sigmaがどのような点で役に立ったのでしょうか。
今回の収量予測というのは、過去の栽培記録のビッグデータを活用しています。昨今、気候変動が非常に多いということで昔のデータだけではなく、直近データも随時入れていくことで予測モデルを更新して使っていくことが非常に重要であるということが分かってきました。データが溜まったら、すぐにモデルを更新する・学習データを増やすといったアクションを取るためにもMulti-Sigmaを使ってより簡単にモデルを作ることができるというところが大きな利点と思っています。また得られたモデルからその収量に寄与する要因の分析が今後の弊社の栽培技術の開発に繋がっていくと思っています。
データの取り方にも特徴があったのでしょうか?
今回やってみて私が思ったこととして、データがきっちりと各菜園で取られていて、そのデータフォーマットが良かったというのも感じています。我々の栽培指導のために取ってもらっていたデータなのですが、そのデータからあそこまで精度の高い予測モデルができたというところで、データというのは宝の山だったのだと感じています。現在、データの精度を良くするため、データの取り方というところも意識するようになっています。結局は自分たちに返ってくるという意識が高まったかと感じています。
AIと農業の親和性
AIでデータ解析をしていく中で、今森さんご自身の感覚として何か変わったこと、気づかれた点などありますでしょうか。
私はずっと農業の研究をしていましたが、やはり農業というのはとても色々な複雑なファクターがあって、そのアウトプット1つ取ってみても何が関与しているのかというのは非常に分かりづらい、説明しづらい事象が多いなと思っていました。けれども今回この収量予測のモデルを作ったことで様々なデータを取って、それで解析をすることで「何か農業を少し読み解けたかな」というそんな気持ちになっています。逆に言うと、そのAIを使うことで、農業データというのはとてもAIに向いていると実感しているところです。
一方で、AIは従来の統計解析ではない解析アプローチというところで、戸惑われた点はありますか。
統計解析をする時にはパラメーター同士の相関を気にしないといけないというところはあったと思うのですけど、AIについてはその辺りを、あまり気を使わず使えるというところは良かったと思っています。また、実際にAIを使ってみて、ここまで精度が出ると思ってなかったですし、学習データを増やしていくことで目に見えて精度も上がってきていましたので、拡張性というか可能性みたいなものをすごく感じていて、今後も色々なところに使っていけるのではないかなという期待を持っています。
近年感じているのは、AIツールは非常に先に進んではいるものの、AIを使いこなす人間側のノウハウの部分は教科書として教えられない部分があって、その点がこれから先の課題かなと個人的に思っていたりするのですが、いかがでしょうか。
そうですね、河尻さんと様々なやり取りをする中で、意外とそのノウハウの部分があるのだなと思ったところですね。やっぱりツールがあるということと、合わせてその細かいデータの作り方だったりとか、計算の扱い方だったりとか、そういったところの使い方、ノウハウも一緒にセットで学べるような形があるといいのかなと思います。
今後、御社が、弊社やMulti-Sigmaに期待することがあれば教えていただけますか。
やはりMulti-Sigmaは、ノーコードで非常に使いやすい解析ツールだなと思っていますので、引き続きどんどん使っていきたいと思っています。これから弊社でも使っていこうという気運が高まっています。やはり使いやすさですね。AIと聞くと、「なかなか使いづらいのではないか、難しいのではないか」と、思われる方もいると思うので、やっぱりどんな方でも簡単に使っていただけるツールというものにしていただけると、より利用者がどんどん増えてくるのかなと思っています。
ありがとうございます。さらに使いやすいようなUI含めて、分析しやすいツールにしていきたいと思います。この度はお忙しい中、取材を受けて頂きまして、ありがとうございました。