Multi-Sigma 開発秘話

Multi-Sigma 開発秘話

Multi-Sigma 開発の動機

本日はなぜ私がマルチシグマを開発したのか、その開発の動機についてお話したいと思います。

実は、私は2005年から2023年の9月までの18年間、日本最大の国立研究機関の一つである、産業技術総合研究所(産総研)というところで研究をしていました。産総研では、基本的にデータサイエンスに関する研究をしていたんですが、実は産総研に入る前の大学の博士課程の時代は、バリバリの実験研究をしていました。

当時は、こんな巨大なプラズマの装置を使って研究をしていまして、この装置、中の温度は1万K(0℃≒273K)ぐらいになるんですけれども、この装置で空気を浄化するための二酸化チタンという光触媒のナノ微粒子を作っていました。

当時、この実験に、とても苦しんでいました。

第一に、この実験は、実験に多大なコストと時間がかかるので、あまり多くの実験を行うことができませんでした。この装置は非常に複雑で大きくて、例えば実験前に減圧するのに1時間以上かかり、実験が終わった後に中を掃除するのにもすごい時間がかかります。実験に伴う色々な作業を行うと、1連の実験の作業を行うために半日とか1日とか、かかりました。その上、内部は凄まじい極限状態なので、良く部品が故障します。内部の石英管を割ってしまうと、オーダーメイドの部品なので、すごい費用がかかる上、削り出しから納品まで数ヶ月待たされることもありました。

第二に、この実験には、たくさんの条件のパラメータがありました。この装置を動かすためには、圧力や電力、ガスの流量など、7つのパラメータを制御しなければなりません。この色々なパラメータをうまく調整しなければ、プラズマが発生しなかったり、うまく微粒子ができません。例えば1つのパラメータに対して10通りの条件を考えると、x個のパラメータの実験条件の組み合わせは、10通り存在します。この装置の例だと、パラメータは全部で7個ありますので、組み合わせは107通り(1000万通り)存在するわけです。当たり前ですが、この装置を使って、全ての実験条件の組合せに対して実験を行うことはできません。

最後に、この実験には、3つの目的があったため、最適な条件を探索することがとても難しいです。目的変数が複数あると、目的変数同士がトレードオフ(1つの目的変数を良くしようとすると、他の目的変数が悪くなるような関係)の関係にあることが一般的です。その場合、全ての目的を同時に満たす単一の最適解は存在せず、人間の認知能力で最適な条件を探索することは難しくなります。

以上をまとめると、私の当時の課題は、多くの条件と目的があるような多入力多目的なシステムの最適な条件を、如何に少ない実験で簡易に探索するか、ということでした。

当時、とある大学の先生から、「実験のデータのプロットとプロットの間の線が見えなくなるくらい緻密にデータをとるのが、良い実験屋の仕事だ」といわれたことを覚えています。しかし、そのような実験を行っていては、いつまでたっても卒業できず、途方にくれました。一般的な実験は、他のパラメータを固定したうえで、一つのパラメータだけを変化させて、パラメータごとに傾向を掴んでいきます。

当時は、そのような人間的な試行錯誤が如何に非効率か、痛感させられました。そこで私は、博士課程2年の時に、実験計画法とAIの手法を組合せ、多入力多目的なシステムの最適な条件を簡易に探索する方法を考えました。もう20年も前の話になります。

私は、工学分野の研究開発というのは、つまるところ所定の目的に対する最適な条件の組合せを探索する活動に帰結すると考えています。であれば、私が当時抱えていた課題を解決できれば、おそらく他にも助かる人がいるのではないか、と考えたことが、Multi-Sigmaを開発するきっかけでした。

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