MEMS製造の“モグラ叩き”に終止符を
7つの条件×3つの性能をAIで同時攻略する
「感度は上がった。でも、直線性が崩れた。」
MEMSセンサの条件出しで、この一言から始まる“やり直し”は珍しくありません。
成膜を調整すれば感度は伸びる。
しかし直線性が揺れる。
エッチングを動かせば、今度はS/N比が落ちる。
扱う製造パラメータは7つ。
- エッチング時間
- エッチング温度
- 成膜圧力
- 成膜温度
- 成膜時間
- 露光量
- 現像時間
満たすべき性能は3つ。
- 感度
- 直線性
- S/N比
これは単なる条件調整ではありません。
7次元空間で3つの目標を同時に達成する、多目的最適化問題です。
今回、この課題に対しAI解析プラットフォームMulti-Sigma®を用いてアプローチしました。
実験前に性能を予測する
最初に行ったのは、製造条件から性能を予測するモデルの構築です。
過去の実験データを学習させることで、
- 未試行条件でも性能を推定
- 有望条件を事前に絞り込み
- 無駄な実験を削減
できる状態を作ります。
Multi-Sigma®ではニューラルネットワークを用いて、3つの性能(感度・直線性・S/N比)を単一モデルで同時に予測します。
同一のモデル内で同時に学習することで、各性能に共通する製造条件の影響を一貫した形で捉えることが可能になります。
これは、性能ごとに独立したモデルを構築するアプローチと比較して、条件間の関係性をより統合的に扱える点が特長です。

感度・直線性・S/N比いずれも、実測値と予測値の間に十分な相関が確認されました。
重要なのは「完全に当てること」ではありません。
探索の方向性を誤らないこと。
これだけで開発効率は大きく変わります。
トレードオフ構造を可視化する
次に実施したのが要因分析です。
Multi-Sigma®は各性能指標に対する寄与率を定量的に算出します。
解析結果から見えてきた構造は明確でした。
感度は主に成膜工程が支配
- 成膜時間:23.7%
- 成膜温度:18.0%
直線性はエッチング工程が支配
- エッチング温度:29.8%
- エッチング時間:29.1%
S/N比はリソ工程が支配
- 現像時間:39.3%
- 露光量:37.4%
性能ごとに支配工程が異なる。
だからこそ、
- 感度を改善すると直線性が動く
- S/N比を守ると別の指標が揺れる
という“モグラ叩き”が起きるのです。
高精度な予測モデルであっても、その背後にある構造が理解できなければ、製造現場での意思決定には活用しづらい場合があります。
Multi-Sigma®では、予測と要因構造の可視化を両立することで、説明性と実用性を兼ね備えた解析を実現します。
構造が見えれば、闇雲な試行錯誤から脱却できます。
遺伝的アルゴリズムによる多目的最適化
本丸はここです。
Multi-Sigma®は遺伝的アルゴリズムを用いて、
- 感度を高める
- 直線性を良好に保つ
- S/N比を向上させる
という複数目標を同時に探索します。
下図は、探索の全世代を目的空間(感度×直線性×S/N比)にプロットし、世代で色分けしたものです。

図を見ると、
- 初期世代(紫)は広く分散
- 世代が進むにつれ(緑〜黄)
- 特定の高性能領域へと収束
していく様子が分かります。
これは偶然ではありません。
解が進化している証拠です。
ランダム探索では、このような収束構造は現れません。
さらに重要なのは、最終世代で単一の解に収束していないことです。
つまり、パレート的に優れた複数の解が存在する。
この結果から、
- 感度重視
- バランス型
- 直線性重視
といった用途に応じて製造条件を選択できます。
実験回数ではなく、探索の質を上げる
このアプローチによって期待できる効果は明確です。
- 実験コストの削減
- 開発期間の短縮
- 属人化の解消
熟練者の経験は貴重です。
Multi-Sigma®はそれを置き換えるものではありません。
むしろ、経験をデータで裏付け、再現可能にするためのプラットフォームです。
MEMS製造の多目的最適化は、今後さらに複雑になります。
必要なのは実験回数を増やすことではなく、
探索空間の地図を持つこと。
Multi-Sigma®は、その地図を描くためのツールです。
もし今、条件出しが“モグラ叩き”になっていると感じているなら、
一度AIによる多目的最適化を検討してみてはいかがでしょうか。
※本記事のデータは実際のプロセスを模した人工データセットを使用しています。
機械学習を使った分析や予測が日常的に行われる今、協調フレームとしてのMulti-Sigma®の役割は増すばかりです。
『どのような場面で活用できるのか』をもっと知りたい方や、実際の利用シーンを見てみたい方は、是非一度お気軽にご相談ください。
In a world where machine learning-based analysis and prediction are becoming everyday practices, the role of Multi-Sigma® as a collaborative framework is more crucial than ever.
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